« NHKスペシャル「激流中国 民が官を訴える 〜土地をめぐる攻防〜」 | トップページ | 『日本共産党』筆坂秀世(著)を読んで »

2007-09-16

ジョージ・オーウェル「1984年」〜 過ぎ去ってなお存在している近未来

  • 1984年  ジョージ・オーウェル (著)  (ハヤカワ文庫)

1984 大学に入る前の高校〜浪人時代、私が最も影響を受けた本は、J.G.バラードの一連のSF、エーリッヒ・フロムの「自由からの逃走」、そしてこの「1984年」だった。最近この「1984年」をひさしぶりに読んでみた。高校時代とは比べられない、強烈なインパクトを感じた。

言うまでもなく、1984年はすでにずいぶん前に過ぎ去ってしまった。だからと言ってこの本が近未来小説としての意味を失ったわけではない。「1984年」が出版されたのは1949年である。ジョージ・オーウェル はその翌年、1950年1月23日に46歳という若さで亡くなった。このころまだスターリンが生きていた。スターリンが死ぬのはその三年後である。1949年時点で1984年は十分未来であったろうが、もはや懐かしむ時代である。この小説に出てくる様々な機械的装置も、コンピュータが主流となった現代から見ればどこか滑稽なアナログ的味わいがある。しかしそんなことはどーでもいいだろう。オーウェルが描いた世界が現実に存在し、また多くの社会主義国が崩壊した今日でも、例えば日本のすぐ近くにこの小説の舞台「イングソック」(イギリス社会主義)とそっくりな国が現に存在する。我々は拉致問題を通じて日々その国の内実を、たとえ表面的な情報であっても聞かされている。

--------------------------------------------------

■統制社会は人間の愛情を破壊する

「1984年」のコンセプトの底辺にあるものは、統制社会は人間の愛情を破壊するということだと私は思う。愛情の破壊はすなわち、人間そのものの破壊につながる。

1984moviecapture_3 主人公ウィンストン・スミスが恋人ジューリアと密会しているとき、彼の五感は安らいでいたが......。
1984movie101_3 おいしいものをおいしいと感じる感覚。楽しいこ とを楽しむ喜び。それは生きているという実感そのものだ。生きている実感の底には人間への愛がある。しかし彼は捕らえられる。
1984movieminiluv2_2 ウィンストンが、度重なる拷問の 果てでもまだ自分がジューリアを愛していることに気づいた時、彼は「愛情省」の101号室に送られる。そこではこれ以上ない最後の拷問が待っている。
1984movieconfess_a_2 最後はウィンストンもジューリアもみな、かすかに残っていた愛の感情すら破壊される。
 映画「1984」より   

統制社会が人間の愛情を破壊するということを、今北朝鮮で起きていることや、かつての中国の文化大革命にあてはめることはできる。一方「統制社会」 という表現をすると身近に感じにくい。しかし「管理」とか「抑圧」というものは、程度の差こそあれ、資本主義社会に生きる我々の人間関係にも時々見られる 一般的な問題ではないだろうか。

--------------------------------------------------

「1984年」の影響

Bigbrother 冷戦時代反共主義の宣伝として単純に利用されたことは、この小説の意味から考えて不幸であったと思う。たしかにスターリニズムを想定して書かれた面は強い。しかし、資本主義か社会主義かに関わらず、国家による個人の統制管理は存在する。だからこの小説の真の意義は、全体主義への批判書としての価値ではないだろうか。そういう意味で 「1984年」はハイエクが想定した「最悪の統制国家」のカリカチュアにも思えてくる。


1984moviebb_a1







 映画「1984」


アマゾンではどなたかが言及しているが、この作品には少なくとも二つの映画化作品が存在する。原作に比較的忠実な「1984」(John Hurt主演)と、「未来世紀ブラジル」である。

Brazil1  未来世紀ブラジル」は公開当時「1984年」との関連が宣伝されなかった。この小説が原作だというわけでもなく、ベースに1984があるとしてもストーリーはぐちゃぐちゃに変えられている。爆笑シーン満載だし、完璧にモンティ・パイソン的ギャグがこの小説との関わりを隠している。一見グレートーンで包まれた1984の世界とは似ても似つかないように見えるのだが....



Brazil2

小説を知っている人が見ると、異口同音にこの映画のベースは明らかに「1984年」だと言う。私も映画館で見終った時やはりそう思った。


「未来世紀ブラジル」のラストシーン


--------------------------------------------------

1984novel

海外で出版された「1984年」


「1984年」の影響はまだまだ続くだろうし年々評価は高くなっている。同じくオーウェルの『動物農場』とともに、Wikipediaでは、「トマス・モア『ユートピア』、スウィフト『ガリヴァー旅行記』、ハクスリー『すばらしい新世界』などのディストピア(反ユートピア)小説の系譜を引く作品」として紹介されている。1998年には、ランダム・ハウス、モダン・ライブラリーが選んだ「英語で書かれた20世紀の小説ベスト100」に選ばれた。2002年には、ノーベル研究所発表の「史上最高の文学100」に選出された。欧米での評価は高く、思想・文学・音楽など様々な分野に今なお多大な影響を与え続けている。

私が最近見た映画で「善き人のためのソナタ」(2006年制作ドイツ映画)というのがある。旧東ドイツにおける人権弾圧を描いた映画だが、その舞台 となる年代はどんぴしゃで1984年なのである。関連を想像するなというほうが無理な想定であろう。

フランソワ・トリュフォーが監督して映画化されたブラッドベリの「華氏451」は、見る側の私には「1984年」との関連を感じさせる小説だ。(華氏451度(Fahrenheit 451)は 1953年に書かれたSF小説だ。)

スタンリー・キューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」(原作は1962年発表のイギリスの小説家アンソニー・バージェスによるやはり典型的なディストピア小説。映画は1971年公開)が「1984年」に影響されていることも明らかだろう。

マイケル・ムーアの「華氏911」は、終わりの部分で「1984年」にある、人民の敵エマニュエル・ゴールドスタインの著作「オリガーキカル・コレクティヴイズム」(=少数独裁制 集産主義の理論と実際)の文章を引用している。

もとはイギリスのコミックらしいが「Vフォー・ヴェンデッタ」という映画も「1984年」に影響されていることを関係者自身が語っているようだ。最近では、「ショーシャンクの空に」の主演俳優であり、「ミスティック・リバー」などでの名俳優、「デッドマン・ウォーキング」で監督としても評価の高いティム・ロビンスが、「1984年」を再映画化するという話が去年からある。もともとの案はロビンスが芝居として書いたものらしいが、舞台となる時代はブッシュ政権による「テロに対して永遠に続く戦争」が起こっている現代のアメリカに移される。

「1984年」と映画作品との関連など、参考になるサイトがある

ジョージ・オーウェル- 著作/リンク・リスト

YouTube : george orwell 1984 に関するVideos

--------------------------------------------------

管理社会批判小説の金字塔

Avrocca21

たしかに文学としての格調高さや完成度という点で、「1984年」はそんなにすばらしい小説ではないかもしれない。やや端折ったように急展開するこの小説の終盤部分には、命ぎりぎりで完成させようとしたオーウェルの無理や困難さも感じる。

しかし読む人の心に届く力が大きいという点で、「1984年」は群を抜いている。今日でも現代の資本主義国のような設定でこの小説が読まれることの意味は大きい。先のマイケル・ムーアの「華氏911」と いいロビンスの新作といい、「1984年」が単なる社会主義批判のプロパガンダではなく、人間の存在と心理、社会との関係に主眼を置いた全体主義的統制社会への批判書として有効であることの証拠だと思う。だからこそ人の心に響くのだろう。

そういえば少し前にはまった浦沢直樹のコミック「20世紀少年」にも影響があるのだろうか。そうではなかったとしても、管理社会を描いた全ての近未来ものはその原点として「1984年」という金字塔を意識せざるえないと思 う。それぐらい影響のある作品である。

Orwell_2
晩年のオーウェル

小説というのは、目に見えないものを言葉で表現しようとする芸術だ。だから時には人々が気付きにくい現象を顕在化させるために、極端な誇張という手法を使うことがある。「1984年」に出てくる"憎悪週間"もそのような誇張の例だろう。北朝鮮を思い浮かべなくとも、あなたの所属する会社や組織、政党、宗教団体、サークルなどに、うんと誇張すれば"憎悪週間"に似てくるような行為がみじかに存在しないだろうか。もしそういうものがあれば、それはどんな人の心にも内在する「群れから外されることへの恐れ」を利用した、「群衆による個人への洗脳行為」である。

もの言えぬ社会があるとき、我々の心は破壊される。私は「1984年」からその警告を学ぶ。

« NHKスペシャル「激流中国 民が官を訴える 〜土地をめぐる攻防〜」 | トップページ | 『日本共産党』筆坂秀世(著)を読んで »

コメント

「ゆうちょ・Suica一体カード」を使っています。
チャージの度に「履歴」を出すと、「こんなとこ行ってたかなあ」って区間まで出る。
「いちいち切符を買ったほうがいい?」いや、ちょっと頭が抜けてる私は「見守られてるんだ」。
そう考えて、生き抜くしかない。

何でも履歴が残って、個人情報がどこかに貯められてて、どうなってるのかさっぱり分かりませんよね。管理されちゃってるんでしょうかねw

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/120253/17520778

この記事へのトラックバック一覧です: ジョージ・オーウェル「1984年」〜 過ぎ去ってなお存在している近未来:

« NHKスペシャル「激流中国 民が官を訴える 〜土地をめぐる攻防〜」 | トップページ | 『日本共産党』筆坂秀世(著)を読んで »

aBowman

別荘はこちら

  • Marbles2
    音楽、美術、映画、本など趣味的なページはここに移転しました。考えるのが面倒だったので、タイトルは単に2です。

ウェブページ

2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

mail

  • 82pkdick@gmail.com

最近のトラックバック

無料ブログはココログ