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2007-09-02

「善き人のためのソナタ」

Post_c328_imageアカデミー賞外国語映画賞を受賞した名作『善き人のためのソナタ』をDVDで見た。
原題は Das Leben der Anderen (英題:The Lives of Others )

1984年という時代設定は、ジョージ・オーウェルの小説を連想せざる得ないが、実際の内容も統制社会の生々しい現実を描いたものなので、小説「1984年」へのオマージュがこめられていると捉えても、あながち間違いではなさそうな内容だ。

Livesofothers2 1984年と言えば1989年のベルリンの壁崩壊直前の時代、映画は東ドイツを舞台に、強固な共産主義体制を維持するための国家機関(というより秘 密警察か)である国家保安省(シュタージ)の実態を描いている。私は以前から、社会主義は芸術と文明の破壊者ではないのかという疑問を抱いてきた。その疑 問が的中していることをこの映画は語ってくれる。人の心を弄び、恐怖という道具で人々を支配するシュタージ、彼らに翻ろうされた芸術家たちの苦悩と、挫折 を刻銘にリアリスティックに描いていく。シュタージが人心を支配する方法を、ドキュメンタリと言ってもよいほどに、具体的で事細かに描くこの迫力は、監督 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが歴史学者や目撃者への取材を経て作り上げたものだ。

Livesofothers72 この映画で注目したのは、弾圧される芸術家や関係者だけでなく、弾圧に関わった側の人間の苦悩をも中心に据えて描いている点だと思う。シュタージの 大尉を演じたドイツ人俳優ウルリッヒ・ミューエは、その心の苦悩や動揺、さらにその動揺を隠そうとする複雑な心理をみごとに演じていて、DVDで巻戻して その表情を何度か見入りたくなるほど印象的だ。その他の俳優陣も素晴しい演技で、とくに主人公の劇作家が恋人の密告を悟るシーンは、両者の目の演技が実に 深く悲しく心に響いてきた。ネットで知ったが、ウルリッヒ・ミューエは7月22日、胃がんのため54歳で死去したそうである。さらに驚いたことに、ミュー エは、実生活では十数年間、自身の妻に密告され続け、国家保安省の監視下にあったそうで、鬼気迫る演技も自分の実体験からくるものなのだろう。

付け加えておきたいが、この映画は渋い色彩と陰影がとても美しい。その渋くて悲しい色合いがストーリーの悲しさと深さをとても強調している。東ドイ ツ無きあとも、現実に北朝鮮のような国がまだ存在するのだが、映画を見終って、このような統制社会がけっしてあってはならないという思いをまたも強くし た。

YouTube : Das Leben der Anderen - Sieland

この後ラストに近い部分に、ゴルバチョフが政権に就いたニュースとベルリンの壁が崩壊したという場面が出てくる。この時、東ドイツの監視社会が崩れ去った。

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