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2008-10-22

消えた「再チャレンジ支援策」

以前に、あるエントリで、難病を抱えて職場を去っていくある同僚のことを書いた。今の日本には、病気などで長期休職した者が、そのまま前の職場に戻るに は、よほどその人を信頼してくれる環境が無ければ難しいだろう。技術があってもそうだから、技術のいらない代替要員の見つけやすい職種では、再就職は非常 に困難。

若い頃、技術職で飯を食っていこうと決めたものの、年をとっても技術さえあればいくらでも転職できるかというと、かなりの不安があった。その頃日本の経済 は安定成長を続けており、企業には日本式年功序列の制度が深く根を下ろしていたからであった。その頃の欧米は、そういう意味では経験者の中途転職がしやす い国であるという(今思えば)幻想があり、日本もそういった良い意味での能力優先主義を取り入れるべきだという考えを持っていた。

それが世界経済の悪化とともに、欧米に抱いていたことが単なる幻想だったということが分かった以上に、欧米、特にアメリカ社会での労働者の転落と格差の拡 大が伝えられるようになり、日本社会も歩調を合わせて景気が悪くなっていった。中途採用の環境を整えろと言うのも虚しく、職場はコンピュータ 化が著しく進み、PCの使いこなせない同僚の多くが首を切られていった。僕自身はなぜかPCになじみ、今こうして生き残っている。かろうじてというべき か...。

選挙が近付いていることが、毎日のようにTVでうるさく報道されている。完全にデジタル化された職場で、毎日一人5〜6台のPCと向かい合って仕事しなが ら、小泉内閣以来のこの数年間、中途採用などをめぐる労働者の流動化について、いったい何が行なわれてきたんだろうと考えてみたりする。

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安倍内閣が掲げた施策の一つに、たしか「再チャレンジ」というものがあったはずだ。通称「再チャレンジ担当大臣」なるものが新設されたり、内閣官房に再チャレンジ担当室というものも設置されたはずだ。その後福田内閣に代わるとともに、「再チャレンジ」という言葉も聞こえなくなった。あれはいったいどこへ行ったのだろうか?

当時、安倍総理は所信表明演説でこう言っている。

「新たな日本が目指すべきは、努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化せず、働き方、学び方、暮らし方が多様で複線化している社会、すなわちチャンスにあふれ、誰でも再チャレンジが可能な社会です」

家にあった週刊誌から引用したこの安倍元総理の所信表明演説をタネにネットをググってみると、ちょうど2年前の今ごろ、あのポッチャりにっこりな経済アナリスト森永卓郎が、顔に似合わず鋭い批判をしていたことを知った。

安倍元総理の意図が、「これからも「負け組」が出ることを前提として、「負け組」の人が「再チャレンジ」できる世の中にしよう」というところにあったこと。それらは、小泉内閣時代の竹中平蔵が、「サーカスで万一綱渡りから転落する人達が出ることを前提としていた」が故に、「セーフティーネットの充実」を考えていたことと、まっすぐにつながった施策であったという指摘は、今日当たっていたと言わざるえない。
「安倍元総理は「負け組」を減らそうとは言っていない。はっきりと言っているのは「負け組」を固定しない世の中にするということだ」と森永卓郎が批判したいわゆる「労働力の流動化」とは、日本をアメリカ型の格差社会に少しづつ近付けるものでしかなかった。

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ワープア問題、非正規雇用問題などはいろんなところで語られていて、僕などが言うまでもあるまい。しかし経済的に利益と直結しない仕事。特に僕が昔勤めていた社会福祉労働などでは、たとえ正規雇用であっても、まさにワーキングプアな実態があることは付け加えておきたい。自分自身20年も前の福祉労働の給与水準を実体験しているだけに、これだけ経済水準、物価水準が上がってきたこの20年後に、今だあの頃と同じような給与でがんばっているこの社会福祉の現場の人達には、かける言葉も見つからないほどだ。

以下は、愛知県で発行されている、ある地方新聞の今年三月頃の記事である。

愛知県が今年2月に発表した2007年県内就業状況によると、医療・福祉分野の年平均就業者数は28万3000人。前年より5千人減りました。高齢者介護、障害者福祉の分野は、低賃金と過重労働のため、従業者が次々と職場を去り、人材養成も需要に追いつかず、事業所は人集めに四苦八苦しています。施設閉鎖もおきています。

3年前に福祉系大学を卒業して民間の老人介護施設で働いていた男性(26)は昨年末に施設を退職しました。「ボーナスや残業手当を含めても年収は250万円前後。結婚を予定している。子どもが生まれたら生活できない。夜勤が月10日もある。とても体がもたない」

自分が若い頃は、給与は安くとも、まだ福祉の仕事にやりがいや生きがいというものが感じられた。この26才の男性が卒業した福祉系大学とは、実は僕の出身大学であった。この新聞の続きには、その、わが母校のある教授の悩みが語られている。

日本福祉大学高浜専門学校は08年度の学生募集を停止しました。同校は1996年の開校以来1000人を超える卒業生を介護・福祉の職場に送りだしてきました。「受験者が年々減少してきている。今後は日本福祉大や系列の専門学校で対応する」と同校就職課。
  日本福祉大学の教員は「ゼミ員15人のうち介護や福祉関係に就職するのは6人だけ。福祉の現場で働きたいと入学してくるが、実習などで現場体験すると『きつそう』と敬遠する」と語っています。

せっかく福祉系大学に来たゼミ員の、半分も福祉の仕事に就かないという現状は、僕が卒業した時代からは想像もつかない。若者の意識の問題もあるだろうが、それ以上に厳しい現場の現実があるのだろう。

ワープアな現状に耐え切れず、福祉の職場を去った者には、まだ若いのに、いわゆる「潰しのきかない」現実が待っている。あきらめて、また同じような福祉現場に戻るか、意を決して他業種に転職するかだが、その先には30才直前にしてすでに、「再チャレンジ」というような多少とも希望のある言葉とは縁もゆかりもない実体経済の社会が広がっている。僕は別にワープアな現状に耐え切れず、福祉の職場を去ったわけではなかったが、似たような選択をしてきただけに、現実が見える。いやむしろ現実は僕が中途で転職した頃より、はるかに厳しいだろう。

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話は戻る。結局、安倍内閣の「再チャレンジ」施策はどうなったのか?そのことについて、雑誌「週間ダイヤモンド」の08年8/30日号にちょっとつっこんだ記事が載っていた。

  • 「再チャレンジ支援策のウソ、ばらまきと人件費に消えた3618億円の格差是正政策」

それによれば、「再チャレンジ支援策」の柱はいくつかあった。

  1. フリーター、ニートなどの就労支援
  2. マザーズハローワークなどの拡充による、機会の均等化
  3. 退職した団塊世代の再就職支援

しかし、08年8月の福田改造内閣の発足と同時に、「再チャレンジ担当室」は廃止された。

関連予算は、2年間の合計で3618億円にのぼる。
07年度 1720億円
08年度 1898億円

計画の中止にはもちろん、安倍晋三が体調不良で内閣途中で政権を放りだしたことが大きく影響しているのは言うまでもない。しかしそもそも国の政策がその程度のことで継承されないこと自体が問題ではないのか。しかしさらに問題は、施策の実施内容だ。

予算の半分はフリーター、ニートなどの就労支援であった。若者に就職支援をする相談所「ワンストップサービスセンター(ジョブカフェ)」を、香川県を除く46都道府県に設置。厚生労働省が毎年25億〜27億円を全国のジョブカフェに振り分けた。またそれとは別に経済産業省は、04〜06年度の3年間、全国から選んだ20のモデル地域を認定し、機能強化と称して186億円を投じた。

しかしこのジョブカフェは、都道府県で2次委託先に選定された民間企業(この記事の例ではリクルート)から高い人件費を請求された。例では、04年度の自社の担当社員の日給を12万円、臨時雇用社員に9万円、キャリアカウンセラー(契約社員)に7万5000円。受付事務職員でも、5万円であった。合計にして20億円は、リクルートの人件費に吸い上げられた形で、しかも、スタッフには実際には満額支払われず、多額の間接コストがリクルート社に払われた形になった。リクルート以外の企業では、SEを派遣した富士通の名前も上がっている。
リクルート社からこの事業の担当になった正社員には、正規の給与にプラス何らかの支払いがされているだろうが、この人件費の金額を聞いて、臨時雇用などの支払いが恵まれているとはお世辞にも思わなかった。要するに委託企業に支払われた全体としての人件費が膨大であったということだ。潤ったのは企業だけであったのか。

結局ジョブカフェなどの「再チャレンジ支援策」で行なわれたことは、公共事業のバラマキと何ら変わりなかったことになる。2次委託先の民間企業とは、都道府県が決める1次委託先が専門分野を検討して選ぶもので、経済産業省によれば「1次委託先の支出についてはチェックするが、2次委託先の契約には関与しない」との姿勢であったので、国に領収書などの詳細を調べる証拠が残されておらず、この「多重委託構造」によって国民の税金がまたもブラックボックスに消えた。

ジョブカフェの実績もあいまいである。ジョブカフェを通じて就職したのは、全体で8万7723人。うち「常用雇用」は6万9331人とある。ただしこの「常用雇用」とは、雇用期間4カ月以上の者としているので、派遣社員や契約社員で終った人達も含まれている。いや含まれているというより、経済の現状からいって、そのような不安定雇用への再就職に終ったケースのほうが多いのではないだろうか。

さらに記事では、「再チャレンジ施策中」に、フリーターの数がピーク時の03年度に比べて86%に減少したことを国が「成果」としているが、実際には若年層の人口そのものが減少しており、労働力人口に占めるフリーター比率は、03年の約9.9%から06年度約8.9%へとわずかに低下したにすぎず、政策効果はかなり限定的だとしている。

結果国が発表した「再チャレンジ施策」の効果には、数値的なマジックが含まれており、若者たちをはじめとする再雇用の現況は、全く改善されなかったという結論になる。国が新しく始める施策の、その本質的な目的は、たいてい大企業と天下り先の法人などのための、新たな利益源確保や開発である。消えた「再チャレンジ施策」も、例に洩れず、飛びついた民間企業などを潤しただけで、またしても我々の税金がそこに流れていっただけで終ったのだ。詳しく見れば、その委託先民間企業の一般社員ですらその利潤にはあずからず、ワープアな社会への還元などみじんも無いまま終った。

我々の記憶に残ったのは、退任会見での安倍晋三の疲れた顔と、「再チャレンジ」という死語だけであったのだろうか。

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コメント

土建業界も同じですよ.
今、CM/PMと呼ばれている、ゼネコン工務店を通さずに、施主に高付加価値商品を直販する、ベンチャー企業を経営していますが、社員一人パソコン最低3台支給してCAD,NET,を駆使してこき使っていますが、社員の定着はきわめて悪いです。
 考えて見れば、今まで御用聞営業をしていた人に、突然前金で売ってやる営業をさせるわけですから、無理ですよね。
 特に社長が変人で、内容証明を出すのと六法全書を読むのが趣味ですから。
業界の人間は耐えられないみたいです。
 この頃ゼネコン倒産が相次ぎ、とてつもない好景気で、仕事を断るのが仕事ですから。
 人間それぞれに歴史と矜持を持って生きてきたわけで、簡単に再チャレンジか゜出来る訳がないですよね。
 でも、今日と明日は全く違う世界ですよね。
 では!

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