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2008-11-30

『すべての経済はバブルに通じる』

  • 『すべての経済はバブルに通じる』 小幡績(著) (光文社新書)

31tctqw0ul_sl500_aa240_ 著者略歴に東京大学経済学部首席卒業などとあるのを見て、嫌になった人も居るらしいが(笑)、そんなこたぁどうでもよいです。なかなかどーして、本質的なことが書いてあって勉強になった。

経済というものは成長し続けるのか?資本主義とは何か?

著者はそれに「ねずみ講」と答える。

例えば株に投資するからには、その株が上がり続けることを期待する。たとえ上がり続けることなど現実にはありえないとわかっていても。しかし上がり続けるためには新しい出資者が増え続けなければならず、その連動が途切れた時に期待は失望に変わる。そこだけを見れば、原理的にはある意味「ねずみ講」である。しかし著者が言っているのは、一つの会社や株式だけのことではない。今日の資本主義、とくにその根幹を支える金融資本主義の原理が「ねずみ講」であると言っているのだから、読む方も落ち着いてはいられない。

金融危機にとって局 所的な問題はきっかけにすぎない。現在のサブプライム問題に端を発する世界金融危機は、たしかにサブプライム問題から始まったにしろ、それが原因ではないと言う。過去の全てのバブルの崩壊、例えば上海発世界同時株安なども、上海でおきたことはきっかけにすぎなかったと。バブルが崩 壊する本質はバブルそのものに内在しているという見方だ。


住宅ローンのようなものも証券化されることで、金融市場で扱える商品になる。しかし証券として転売できることが、銀行など貸し出す側の責任をあいまいにし、新規の融資を無計画に生み出すなどの危険を生むことは、すでに他の本で分かっていた。しかし返済が滞るぐらい予測ができそうなのに、なぜ、そんな金融商品に多くの投資家が飛びついたのかと誰しも思う。そこの疑問をこの著者は詳しく解き明かしていく。簡単に項目を拾えば...。

  1. リスクの小口化
  2. リスク除去
  3. リスクの純化
  4. リスクのオーダーメイド

2.はサブプライムローン証券がなぜトリプルAといった高い格付けを得たのかに関係する。これを読めば「金融問題の一端は格付会社の無責任」といっ た世間の批判も、ある種一面的だと感じさせる。3.に関して言えば、証券化し小口化したローンを他の証券化商品に挽肉のように混ぜて世界にバラまいた金融 会社の責任が言われるが、それにしたって手法としては、リスク回避と軽減の一般的で合理的な金融手法であり、非難されるものとも言えまい。それは4.にも 当てはまり、こうした合理的手法なしに金融は成り立たないだろう。

証券化によって資産はキャッシュフローだけで評価される商品へと変質する。しかしいくら証券化してもそれが商品として売れなければ魅力はない。売れない証券はチビチビとキャッシュフローを得るだけのものとなり、おおもとの返済が 滞ればただの紙屑に近付く。

しかし、単にリスクとリターンだけを見れば審査できるよう洗練され「標準化」された現代の金融商品は、キャッシュフローで評価される商品から、さらに短期間で利益をあげればよい「売るための商品」へと進化する。それによって流動性リスクを抱えこむが、確実に売り抜ければよく、また確実に売れるなら流動性リスクもリスクではなくなる。売りやすいことが流動性リスクを軽減する ので、商品自体の価値をさらに高める(流動性プレミアム)。そしてそれが売れるためにも、バブルの発現が要請されることになる。

しかし「売るための商品」とは、当り前のことを言っているにすぎない。証券化された資産を金融商品として洗練し、小口化しブレンドすることで流動性リスクを軽減することは、金融市場が市場であるかぎり必然である。それを良いとか悪いとか言ってもはじまらない。

流動性リスクが軽減された金融商品は、元の資産のリスクが不変であっても資産価値として上昇し続ける。それを見逃さない著名な投資家が買いに走れ ば、他の投資家も追随する。金融商品はもはや、それが生み出すキャッシュフローではなく、転売可能性とそこで得られる短期決戦の利益によって価値判断され るようになった。しかし転売可能性を高めることで元もとのリスクを消し去った金融商品が利益を生み出し続けるには、それを買ってくれる投資家層が拡大し続 ける必要があるが、それは永遠に続くものであるハズがない。投資のチャンスは先に流れにのって売り抜けた者が勝ち、後から参加した者ほど利鞘が少ないが、 最後の最後には必ず買う者と利益が減少し崩壊する。たしかに「ねずみ講」に似ている。

結果、このように洗練された金融商品は、それ自体がバブルを要求する構造を内に秘めている。金融商品のあり方自体が、投資家の分析コストを低下させ、投資家層の急激な拡大につながった。今や金融市場に動いている資金の総額は 膨張に膨張を重ねている。世界の金融資産の総額は昨年時点で1京円(1兆円の1万倍)以上と見積もられ、実体経済をも翻弄するパワーを持つに至った。これ は世界のGDPの数倍の規模にあたる。しかもそうした世界中を駆け巡る資金が、コンピュータによって情報連動されているために、瞬間的に共鳴し、一斉に動 く傾向を持っている。もはや巨額の資金を持つ米国政府をもってしても、この奔流を 止めることは不可能だ。


この複雑な戦いを勝ち抜くために金融工学という素人には近付き難い分野が登場した。そして資金を投入する資産家と、頭脳を駆使するファンドマネージャーという分業が生まれた。著者は「資本と頭脳の分離」 と呼んでいる。この雇い雇われの関係が金融の流れから逃げることを許さぬ宿命を生んでいる。結果の出せないプロジェクトは解散させられ、ファンドマネー ジャーは明日の仕事が保証されないため、ささいな差益であっても利益を勝ち取ること、大量の資金でレバレッジを効かせる手法が要求される。投資は「勝ち続けることが宿命のギャンブル」となる。賢明な投資家も、乗り遅れたファンドマネージャーも、利益を上げようとするかぎり逃げることはできず、リスクを取りに行く(=リスクテイク)に皆が殺到し、そこにリスクテイクバブルが生まれる。

著者はこの「資本と頭脳の分離」がもたらす構造の典型として、この本の最後のほうで例のLTCMを 取り上げている(P234「金融工学バブル」)。2人のノーベル賞経済学者とカリスマトレーダーを配したLTCMがやろうとしたことは、けっして俗論で流 れているような危険な投資ではなかった。彼らがやろうとしたのは、価格が理論値よりずれて相対的に割安になったものを買い、割高なものを売ることで、その 価格差を利用して少ないリスクで利益を上げようとする、「裁定取引」だった。そして理論値とのずれを割出すために高度なコンピュータ・プログラムを生みだし、金融工学を洗練させた。実際98年初頭までは年率40%という高いリターンを生み出していたのだと言う。

しかし人気の出たLTCMには大量の資金が流入し、現代の金融市場の構造的欠陥である、投資機会の不足に直面した。大量の資金を運用することが、他の運用者というライバルの登場を招いただけでなく、「何よりも、自分たちが自分たちのライバルになってしまった」。これはヘッジファンドが陥りやすい一番の罠であり、「成功すればするほど、破綻の可能性も高まる構造」になったと著者は言う。

しかしLTCMは典型的な一つの例である。どんなファンドマネージャーたちも、取るべきでないリスクを過大に取ってしまう傾向を持つ。これにより金融市場全体で、リスクテイクが過多になる。個々の合理性を追求しても、全体ではおかしなことが起こってしまう。そこではアダム・スミスの「見えざる手」の効果は破綻している。


お茶の間のニュースでは、「著名な投資家はバブルに手を出さない」とか「利己的な投資家が群がってバブルを作っ た」とかいう俗論が流されている。しかし、現代の金融では、利益を生み出す構造自体がバブルを求めていかざる得ないと著者は警告する。金融危機の原因を「投資家という悪人」の責任に矮 小化するのは、この本質を見ないものとなる。

バブルは要請されるがゆえに必然的に生まれ、必然的に崩壊する。そこにあるのはいつか読んだ、あの岩井克人氏の「貨幣論」に出てきた循環論法である。

バブルに理由は要らない。バブルはバブルであることが重要なのだ。

産業資本主義はもうネタが尽きてきている。実体経済で利益を上げにくくなった20世紀末から、資本主義が金融資本主義に発展し、グローバルに広がって市場を喰い尽くしていくのは歴史の必然である。しかしグローバルな規模で自己増殖と自己崩壊を繰り返していく中で、利益を上げていくのは「喰い合い」と「喰い尽くし」を生んでゆくだろう。時には「共食い」もあるかもしれない。現実にそれは、金融資本どうしの増殖競争として、国家および経済圏の覇権争いになっていく。ロシアの北海資源への進出もよく話題になるし、他にもこんな話があるようだ。

世界的な規模に拡大した金融資本が、自らバブルを生み出し崩壊させながら自己増殖していかざる得ない構造を、著者は人間のガンに例えて「キャンサーキャピタリズム」と呼ぶ。

このガンの増殖をどう防ぐか?

今後の見通しと対策については悲観的である。

21世紀においては、キャンサーキャピタリズムが形を変え、品を変え、次々と発症するだろう。その発症がわかっていても、それは社会的に制御できるものでなく、金融資本が自己増殖を続ける限り、それは止まらないであろう

私にはこの悲観論の方が、最近巷で流れている「投資家を法規制せよ」といった俗流経済評論家の見方よりも、ずっと本質を見抜いていると感じたのだけれど。

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バブルの実態が解説してあります。 投資のプロはバブルだと気づいていないわけではなく、気づいていながらもそれに乗るしかない現実があるようです。なぜなら、バブルに乗っている競争相手のほうが当然成績が良くな... [続きを読む]

» 読後評:すべての経済はバブルに通じる 平易かつ切れ味よいサブプライム問題分析。 [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
現在の世界への影響があまりに大きく、今後も全く余談を許さないサブプライム問題。 サブプライムローンはなぜこれほどに世界的な金融危機を招いたのか。 これを非常にわかりやすく読ませる。 著者は、慶應大学院経営管理研究学科の准教(≒助教授)で、自分も投資を実際にしていたという 小幡 績氏。 冒頭で学生向けに作者が作った3つの問題の答えを紹介するところから、一気に惹きこまれてしまう。 その3つの答えがあまりにシンプルで強力だからだ! 第1章〜2章で、サブプライムローンが証券化というマジックによって、... [続きを読む]

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