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2009-01-04

ヒトラーの贋札

近頃映画館に行ったことがなく、子供が大きくなって家族で出かける時間が減り、さほど映画好きでもない嫁は入場料金を先に気にするのだろうか、あまり自分から誘わなくなった。まあ確かに、たかが3人家族でも映画見てそれなりの所で食事したら万札飛ぶしな〜。結果見たかった映画は、半年〜1年以上遅れで連休や年末年始に見ている。

「ヒトラーの贋札」もそんな見たかったリストの筆頭だったけれど...。

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「ヒトラーの贋札」(日本語公式HP)
監督:ステファン・ルツォヴィツキー
原作:アドルフ・ブルガー
主演:カール・マルコヴィックス(サリー役)
製作: 2007年、ドイツ/オーストリア

原作があるのは知っていた。確か去年図書館で部分読みした覚えがある。原作というより原案? ほぼ実話なようで、著者のアドルフ・ブルガーは、強制収容所で実際に紙幣贋造に携わった印刷技師だったとか。原作名は「THE DEVIL`S WORKSHOP(日本語版「ヒトラーの贋札 悪魔の仕事場」。

話はナチスが第2次世界大戦中に進めた、国家による史上最大の贋札事件「ベルンハルト作戦」を描いたもの。作戦を主導したトップはヒムラーだったらしいが、映画には「長官がお怒りだ」程度の逸話でしか出てこない。

大戦中のドイツは、ザクセンハウゼン強制収容所の中で、ユダヤ系技術者たちを強制して、ポンドやドルの贋札を作っていた。カール・マルコヴィクス演じる主人公サロモン・ソロヴィッチ(サリー)は、実際にプロの贋作師だったから、イギリスの当局が調べても気付かない精巧なポンド贋札をつくる。この歴史的事実は興味深いし驚くべきもの。とりあえず思い出すのは、最近の北朝鮮の贋札か? この物語のユダヤ人たちはロシアなど北側からやってきた人達が多いようで、シャガールなどと同じロシア系ユダヤ人かな。

Hit_nisesatu贋札作りの目的は敵国を経済的に混乱させることだったが、大戦末期はドイツ自身が外貨不足で武器の材料などを調達できず、贋札作りの目的もしだいに変わっていく。 結局ドル紙幣の贋作は、完成まで行って流通は未遂に終わったようだが、ナチは戦後発見されないよう、印刷機など道具の撤収とともに、秘密を知るユダヤ人工員を抹殺しようとしたのだろう。映画では、ソ連がワルシャワまで迫った時点でその工員皆殺しの危機が訪れるが、実際実行しようにも末期の親衛隊は統率が乱れ、助かったユダヤ人も何人か居た。

昔の仏映画などにもその傾向はあったが、最近のヨーロッパ映画の撮り方は、プロ用の携帯カメラで撮るシーンが多く、ここがアメリカ映画と違って新鮮な反面、正直見辛い。また予算の関係か演出の問題か、脚本はともあれ背後の設定や演出が弱く、どことなくTVドラマ的な底の浅さがあるような。そこらへんは「白バラの祈り」も同じだったと思う。この映画も、ナチの存在感や演技に迫力がなくて、ユダヤ人工員の置かれた悲惨さへの切迫感が伝わらない。ナチの犯罪捜 査官ヘルツォーク(デーヴィト・シュトリーゾフ)の威圧感も、「おまえたちを利用はするが、逆らったら容赦しないぞ」という雰囲気をセリフで語らせようとしすぎで、もっと俳優の演技を補う演出があっても良かったのではないだろうか。まあそこは、「きっと何人かは助かるだろう」と、歴史を知って先読みしているこちらの心理にも一因があるのかもしれないが。

アウグスト・ディールが演じるアドルフ・ブルガーという印刷工は、共産主義に憧れる青年。主人公サリーの現実主義な生き方とは対象的に、収容所の中でサボタージュすることで作戦妨害を計ろうとする。抵抗運動の発想はいわば「蟹工船」と同じ。ただ映画は、仲間から孤立しながら理想を手放さないブルガーを美化しなかった所がいい。途中まで一触即発のイデオロギスト、ブルガーを、他の工員は自分達の命まで巻き込む危ない存在としてあわや殺してしまう寸前まで行く。工場長やサリーの説得も虚しく、わからずやのブルガーだったが、最後に収容所が開放されると工場長から「彼のおかげで助かった」と讃えられる場面も。そこは「いまさらなに言いやがる」的なブルガーの苛立ちをもっと見せてもよかったが、映画はそういう細部に立ち入らない。アドルフ・ブルガーという名前から原作者と分かるので、彼から見た人間たちの滑稽さや汚さ、あるいはイデオロギー的な理想に固執していた自身への回顧的な葛藤みたいな視点も、もっと掘り下げてほしかった。

と書けば何が物足りなかったのかは見えてきた。個人の内面、心理だ。どこか人間の心の薄暗さのようなものの演出が不足なのだ。せっかくユダヤ人どうしの対立という斬新な切口で描いているのだから、もっとそこを踏み込んでほしかった。

一方本来犯罪者である主人公サリーの生き方はどこか共感できた。ブルガーとは対象的に、思想などかけらもない現実的でずるい男なのだが、身近な弱者へのいたわりや優しさを忘れない。そして一緒に働く仲間をけっして密告しない。たとえ自分に刃向かう危険なブルガーであっても。

イデオロギーに走る理想家はしばしばまわりの人間を犠牲にするが、現実的な思想のない人間がむしろ仲間をかばうというこの構図、しかし人の記憶に残るのはしばしば理想家のほうであったりとか。これって我々の日常でよく見る光景ではないか。そのあたりの捻じれた関係を伝えたいというのは、脚本的には成功しているが、もっとズシンとくる心理描写の深さがほしかったなー。

とは言え、贋札作りなどというものが、他国の経済を混乱させるための国家プロジェクトとして存在したことは覚えておこう。実際に贋造されたポンド札は1億3,200万ポンドにのぼるのだそうだ。今ドルでそれをやったら、自国の経済もダメになる暴挙だが、だからこそ北朝鮮のような「閉じた」国家に利益のある戦略なのか。ならば独裁国家を経済的に開かせるということに平和的意味はある。やり方が独裁国家の特権階級だけを肥え太らせるだけの方法になっているのが問題。既得権益狙いの安易な国交回復論では、ブルガーのような過激派のほうが美しいカモ。

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