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2009-02-18

村上春樹のエルサレム賞受賞について

村上春樹がイスラエル最高の文学賞、エルサレム賞の受賞者に決まったことで、あちらこちらで賛否両論が起きている。イスラエルのガザ攻撃を非難する大衆団体などは、もっぱら村上氏が受賞を受理したこと自体に批判的だ。例えば次のようなニュース。

しかし、村上氏が受賞式典に出たこと自体は、「イスラエルの戦争犯罪を隠し、免罪することにつながる」ようなものに見えただろうか?

全く無知だったが、エルサレム賞というのはイスラエル最高の文学賞だそうで、1963年から隔年で受賞者が発表されている。エルサレムの国際ブックフェアで「社会における個人の自由」に貢献した文学者に贈られるのだそうだ。バートランド・ラッセル、ボルヘスなど、これまでの受賞者にはぎょっとするようなすごい名前が並ぶ。日本の作家としては初めての受賞なのだそうだ。しかしこの間の情勢である。「社会における個人の自由」をイスラエルから評価されても、まともに受け止められないのは当然だ。

日本のTVの報道は断片的で、村上氏の真意を伝えるにはほど遠い。ネットでは早くも自分の手でスピーチを翻訳してみた方が数人おられる。スピーチの抄録を紹介しているのはイスラエルの現地紙「Jerusalem Post」だが、当然何らかのバイアスがかかった紹介であることは予想されるので、他のメディアの情報も照合して翻訳している人がいる。

村上春樹は好きな作家の一人であるし、最初報道を聞いた時は、受賞式に出たことに戸惑いもあった。しかし今日こうした翻訳を通じて読んでみて、拙い英語力で原文なども照し合せてみて、個人的な結論として、僕は村上春樹を支持しようと思う。

村上春樹の小説に対しては人それぞれ好嫌いもあるだろう。しかしスピーチの中に出てくる次の言葉を読んで、彼は芸術の本質を理解している作家だと思った。

「僕が小説を書く目的はひとつしかありません。個人の持つ独自の神性を引き出すことです。独自性を満足させ、システムにからめ取られないようにすることです。」

この言葉は、芸術の個人性を理解できない、ヘタな「プロレタリア作家もどき」に聞かせてやりたくなる。そうだ、芸術とはどこまでも個人的なものであって、それでいいのだ。そうであってこそ社会のシステムと芸術は対峙できるのである。

「たとえばそこに硬くて高い壁があって、一個の卵がそこにぶつかって行くとしたら、たとえ壁がどんなに正しくても、卵がどんなに間違っていたとしても、僕は卵の側に立ちます」

すぐにわかるが、壁とはイスラエルのような国家であり、戦車であり、白リン弾であり、強大なシステムの側に立つ為政者であろう。ならば卵が何の喩えかは言うまでもない。

朝日新聞によれば、イスラエルのメディアはこのスピーチを批判的に伝えることはせず、授賞式に出席したことに力点を置いたとか。英字のエルサレム・ポストは「得意の難解さで受賞理由を説明」との見出しで、講演は「真にムラカミ・スタイルの、あいまいともいえるもの」などと、村上氏の真意を隠そうとしているかのようだ。壁と卵の比喩が何かを明確に捉えれば、あいまいさなど微塵もないはず。

確かに選んだ言葉を表面的に見れば、小説家らしい解釈の含みやあいまいさを残しているが、一方では明らかに周到に考えられた内容と読める。スピーチからは受賞式に出るべきか迷ったことや、友人知人やその他各所から出ないよう警告を受けたことが伝わってくる。また、YouTubeで流れているスピーチの様子からは、本人の緊張も感じられる。

このような受賞の際は、拒絶によって社会的問題への態度を表明するのが一般的なので、式典に出たこと自体を批判するむきもわかる。しかしきっと彼は、このような言葉が、イスラエルの前で語られ、世界に発信されることを目的として、出席したのだろう。

こんなスピーチをイスラエルの人達の前でする勇気に比べれば、イスラエルから遠く離れたこの平和な国で、しかもネットのこちら側から村上春樹はクソだと書く勇気など、ゴミのようなものでしか無いだろう。

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