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2009-02-02

非正規雇用は簡単に無くせるものなのか?

本屋で雑誌「正論」が目に止まった。連合とかいう名前のある大きな労働組合のエライ人が、小泉内閣時代の派遣法改悪が諸悪の根源、その前の状態へ戻 せと書いている。また、派遣労働を例えば3年勤めたら正社員にすることを法的に義務化して規制せよと主張する議員も居る。しかし製造業への派遣を認めたつ い数年前と比べても、さらに経済のグローバル化が進んでいる。タイムマシーンで時間を戻せといった労働規制で問題が解決するのだろうか?

問題は派遣"切り"であって、"派遣"そのものが諸悪の根源かと言えば、そう単純には言い切れないような気もしてくる。朝日ですら、世論の複雑さを紹介するようになった。(朝日新聞:2009年1月11日「朝日新聞世論調査」)

派遣従業員の契約打ち切りが相次いでいることを受けて、製造業への労働者派遣禁止が議論になっている。「かえって雇用が減るという意見もある」と紹介したうえで派遣禁止への意見を聞いたところ、禁止に「反対」が46%で「賛成」の30%を上回った。

製造業の派遣労働者は46万人ほど居たらしいが、これはウラ側から見れば、派遣によって46万人は失業せずに済んだということ。それがりんご農園のAさんのように裏で兼業農家の副業をも支えてきたとなると、単純なことは言いにくくなる。 Aさんの場合、問題の根本は農業政策にあるが、ある種の「必要悪」として派遣労働の価値があったと。事は若年労働者だけの問題でなく、派遣村に見られた40代50代の都会の独身労働者の問題だけでもない。

経済の絡み合いの複雑さに頭が痛くなる。


想像だが、第一次産業の従事者が派遣労働に出るような話は、漁業の分野でもおそらくあるだろう。

日本の雇われ漁師の収入の多くは固定給と歩合給の併用だという。マグロはえ縄漁船の漁師の基本給は14〜15万だが、その上に歩合給が積まれて倍以 上の収入になるシステムらしい。短期月収が比較的高いのはサンマ漁船の漁師で、平均月54万にもなる。しかし相手は季節の魚なので、サンマ漁の操業期間は 年間わずか94日。それ以外の日、多くのサンマ漁師はより収入の低いサケ・マス漁に出る。年間操業日数は取る魚の種類に縛られるので、イカ、カツオ、マグ ロなどは300日前後働けるが、日数の少ない魚種の漁師は、数種の漁の兼業をせざる得ない。月54万のサンマ漁師がサンマだけで得る年収は170万程度。 操業日数が348日と多いマグロの場合でも、年間収入は277万円程度。短期的月収だけでは漁師の収入は分からないのだ。

個人経営の漁師の場合でも、漁労所得は全国平均259万円(農林水産統計)。漁師だけでは食べていけない現実は農業と同じと思える。ガソリン物価高 騰で漁師たちがストライキや抗議行動をしなければならない背景がここにある。(数値的な資料は昨年の週間ダイヤモンド9/13日号)

漁師だけで食べていけない漁村の人々は、昔は多くが農業との兼業漁師であった。しかし農業もまた食べていけない。では操業期間以外の日々を漁師はど う過ごすかと言えば、地方企業の会社員との兼業に走る。その際、年間通じて縛られる正社員でいるより、パート、アルバイト、派遣、期間労働のほうが、漁師 を継続することだけで見ればメリットがあるだろう。

以前、イカ漁をする漁業協同組合の話をニュースで聞いた。松葉ガニで知られる兵庫県北部の漁協のうち、唯一カニ漁でなくイカ漁を中心にいさり火を守ってきた。しかし、このところ10年間で新しく漁師になる人はおらず、深刻な後継者難に悩まさ れていた。高値で売れる松葉ガニ漁なら漁師のなり手も少なくないが、イカの専業漁師のほうは、最年少(?)で50歳代。最盛期の年収は1000万円以上 あったが、最近は500から300万円代へとやはり落ちてきている。魚価は下がるが燃料代は上る。漁に出るほど赤字になる。

だから、そこも組合員約300人の約3分の2が会社員などとの兼業漁師であった。会社員の方が安定した収入があるのでと息子に跡を継がせない漁師も多い。しかしこれは一昨年の話。田舎の企業はこの2年の間にも衰退している。そこに金融危機が来た。

日本の平均的漁師の一家は、どんな暮らしなのだろう。操業期間の合間に漁師の父は期間労働に出る。妻はパートと自給自足程度の農業の掛持ち。大きく なった息子たちは、漁業をせずに会社に勤めて家に金を入れ、みんなで家計を支える。そんな漁村の姿が多くあるのではないだろうか。ならば派遣切りや地方の 企業の倒産が、相互作用して、漁業の存続にも影響する事態も容易に想像できてしまう。


数日前からは大企業が正社員を削減するニュースが相次いでいる。派遣労働を禁止すれば、企業は正社員を今より安い賃金でこき使い、サービス残業を増 やすだろう。派遣を禁止したり、一定期間で正社員に登用せよなどということを法律だけで決めて、企業援助も労働者援助もしないなら、企業は単に派遣を雇わ ないだけだろう。内定取消の批判が単なる特定企業のバッシングでは、企業側は新規採用にさらに慎重になるだろう。派遣可能業種を昔に戻して、製造業への派 遣を禁止し、専門技能的労働に限定すれば、派遣で食いつないでいた兼業農家や漁師の閑期の仕事は無くなるだろう。

労働政策いかんでは、大企業はさらに、一度冷めかけていた海外労働力依存度を高めていくだろう。あるいはトヨタのような大企業では、さらに業務のロ ボット化を進めるだろう。それは社会全体として見れば、さらに失業者を増やすことになる。経済の停滞は若者からチャンスと時間を奪い、伝統的な一次産業を も破壊していく。格差を言うなら、上の世界のふかふかの椅子でふんぞりかえったノンワーキング・リッチの所得再分配や、失業しても深刻な生活不安にはなら ないセーフティ−ネットを考えるべきではないか?

派遣労働とりんご農園の関係などを考えていると、経済現象のつながりは複雑で深いものなのだと思ったりする。貧しい若者の心情に訴えるだけの政治家 のパフォーマンスは聞き飽きた。アメリカは上位の富豪400人が国民全体の所得の40%を得ているのだとか。日本の貧富の格差はまだそこまでひどくない。 しかしアメリカの後追いばかりしてきたこの国がそうならないうちに、政治家はパフォーマンスでなく、有効性のある経済政策を打ち出してほしいと思う今日こ のごろだ。

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