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2009-02-05

連合会長、高木剛氏の「正論」寄稿文について

連合の会長、高木剛氏が月刊誌「正論」に寄稿している。(「今こそ小泉構造改革の"迷夢"を断ち切れ」)

今こそ、これまでの価値観を転換すべきである。むきだしの競争社会では人は 生きていけない。「連帯と相互の支え合い」という協力原理が活かされる社会、ぬくもりのある社会とするため幅広い国民的な合意を形成していく必要がある。 株主主権主義からステークホルダー主義への転換をはかり、効率と競争最優先の価値観から公正と連帯を重んじる日本をめざして大きく舵を切るべきである。

『連帯、公正、規律、育成、包容...』書かれている言葉は美しいが、内容に具体性が乏しい。一見何かを提案しているようで何も提案されていない。そこにあるのは理念だけではないかという印象を受けた。

「もう一度厚い中間層を取り戻し、安全と安心、そして信頼の日本、希望の国日本を実現するためパラダイムの転換に向け、大きく舵を切らなければならない。」

それはそのとおりだ。しかしこんな状態に至るまでに、連合などの大手労働組合の責任は無かったのか。

高木会長は「東洋経済2/7号」でも、経団連の鈴木正一郎 雇用委員会委員長と激論バトルしている。2人とも雇用調整の対象になる労働者のためにセーフティーネットが必要と言っているが、両人ともに職業訓練校とワークシェアリングの同じような話をしていて、符合しているのがどこか奇妙だ。私は、セーフティーネットとは労働の問題だけでなく、もっと生活環境全体を含んだ話だと思っているが、お二人の言うセーフティーネットの意味合いにはどことなく違和感を覚える。職業訓練校も最近いろいろ問題あったし、雇用の激減した状態で職業訓練だけしてもと思うし。


介護部門のコムスンの不正などで注目されたグッドウィルは、日雇い派遣の大手企業でもあったが、厚労省から「業務停止命令」を受けた後、二転三転して 2008年7月末には実質廃業した。TVに何度も映った折口会長の暗い顔は、誰もの印象に残っただろう。折口会長は経団連の理事にもなっていたが、グッドウィルの「業務停止命令」は、 2007年12月の「労働政策審議会」中間報告における「労働者派遣法」の改正見送りに連動したバーターだと言われている。政官財が一体となって、ワーキング・プアからの搾取を正当化するために、あらかじめグッドウィルを生贄にしたという見方だ。バーターであった証拠に、コムスンの不正といいグッドウィルの不正といい、あれだけ問題にしておきながら、派遣会社全般のあり方は見直しされないまま、雨後の筍のごとくいいかげんな派遣会社もどきが発生し、現在の派遣切りのベースが作られたと思える。

この「労働政策審議会」は、日本の雇用政策にお墨付きを与える機関である。その委員構成メンバーは、使用者代表は大企業の役員、労働者代表は正社員を代表する連合や大規模産別の役員が中心。

我々のような、大手組合に組織されることのない中小企業の正社員(それが労働者の大半なのだが)にとってみれば、この「労働政策審議会」は「労使の代表で構成されている」と説明されてみたところで、「労」の方は頼んだ覚えの無い方々が顔を並べているというのが実感。ましてや非正規の労働者から見た感想は、聞くまでもないだろう。

嫌というほど書かれてきた派遣法の経緯だが、あえて簡単に辿る。1986年に施行された「労働者派遣法」は、当初、通訳や旅行添乗員など高度な特殊技能の職業に限られていた。それらは短期間労働であるが、業務内 容的に見て高時給がふさわしいことから、派遣という形態は妥当と思われた。だがその後、度重なる改悪が行われ2004年には製造業に範囲拡張された。2004年の「労働政策 審議会」では、連合代表は無制限の派遣拡大を危惧した意見を述べているが、経団連の役員に説得され譲歩してしまった。ここで正社員の雇用維持とひき かえに、非正規労働者を不況期の生産調整弁とすることが、労使の代表で合意=取り引きされたのだ...と悪口言われても仕方がないだろう。その頃から徐々に始まった不況下に、大手組合の正社員の権益を引きのばすため、非正規労働者の権利が犠牲にされたのである。

連合は反貧困ネットワークなどの運動には、あまり協力的でないと言われている。昨年3月高木会長を含めた連合本部が「反貧困フェスタ2008」に出た際も、組織内で批判が聞かれたそうだ。だから年末の派遣村なども、高木会長は一応訪れたが、はしゃいでいた菅直人や瑞穂やCたんと違って、そそくさと立ち去ったとか。

組織をあげて貧困問題に取り組む姿勢のない連合に、前会長で労働者福祉中央協議会の会長でもある笹森清氏は、大同団結を呼びかけ、反貧困運動に連合の名前が前面に出てこないのは極めて残念であると言ったらしい。しかし、先の04年の「労働政策 審議会」で、経団連の役員に説得され譲歩してしまったのは、当の笹森前会長であった。


先の「正論」寄稿文で高木会長は、非正規雇用増大などの社会的問題を起こした主犯が経営であるならば、労働組合は従犯だと連合の責任を認めている。 格差拡大は市場原理主 義の競争社会が生み出したものであるが、連合なども組合員の雇用を守るため企業のリストラ策に追随したことが、全体では結果的に非正規雇用の増大を引き起 こしたと言う。「非正規雇用労働者が視野に入っていなかったことは反省すべきだ」「効率と競争最優先の価値観から公正と連帯の価値観に転換すべき」 だとも。連合は公務員、大企業社員のみを代弁しているという批判に謙虚に耳を傾け、今後非正社員への支援に取り組む事を目標とするなど。

日本の労働環境は正社員の既得権益を守ることに重きを置いて改善されてきたと言ってもいいだろう。日本の経済が成長して実際に中間層が広く存在した時代はそれで良かったが、今 のように経済が破綻して非正規雇用の比率が大きい状態では、正社員の既得権益にもメスを入れなければ、非正規も含めた労働環境の改善は無理ではないだろうか。だから こそ、高木会長の論のように、理想を掲げておきながら一方で組合員の「賃上げこそ最大の景気対策」とするのは、一つの矛盾が生じるのではないか。

2008年12月19日の時点で、年末にかけて全国で約9万人の「雇用調整」が実施され、うち6万人が派遣社員であった。今現在、非正規雇用の比率は労働者全体の3分の1にまで膨れあがってきている。

企業が好景気に積み上げた内部留保を使い、労働分配率を上げるなどで雇用を維持せよという意見は正論である。しかし今の経済の状態はそうした正論だ けで乗り切っていけるレベルでは無くなってきている。それは企業の存続だけの問題ではない。消費者でもある労働者の中で購買力のある人々の比率が極端に 減ってきているのだから、組織率の落ちた連合などの大手組合員の賃金を上げたところで、画期的な前進は望めない。そもそも連合などに所属する労働者は、公 務員、大企業社員が多く、まだまだ購買力のある傷の浅い人々ではないだろうか。そのことは、連合ほどの組織人員は無いとはいえ、国公労連を傘下に置く全労連に対しても言えるだろう。

高木会長の言うように「賃上げこそ景気対策」である。しかし誰の賃上げか?

労働組合の組織率はもはや20%を割り込んでいる。組織も既得権益も無い中小企業の正社員や、パートやアルバイト、派遣、期間労働者 などの非正規や、すでに失業者となっている人達の購買力=生活まで視野に入れなければ、日本の経済はけっして上向かないだろう。

階級闘争的史観は死んでいる。問題の中心は「労働者vs資本家」ではなく、「世代間格差」だと言われている。「蟹工船ブーム」などという時代遅れなツールで、非正規労働者の若者を煽る、一部の時代の空気が読めない人達も(共産党を中心に)居るようだが、これから生まれる子どもたちの税金年金負担が現在世代の18倍に膨れ上がるという、生き辛い未来をまず何とかしなければならない。

実体経済の仕組みから言えば、企業が不況期に非正規雇用を調整弁に使うことは合理的だ。正社員が自分達の生活を守るために、組合を通じて賃上げを要求するのも当然だ。 しかし、そこで生じたひずみを、社会のシステムの外側に置かれた人々に押しつけていては、社会全体が成り立たなくなる。非正規の労働者にとって労働裁判で の勝ち目はない。連帯、公正、包容と言うなら、例えば「労働政策審議会」のメンバーに、各地に分散した非正規雇用の組合代表者を常時参加させてはどうか。

システムの改変・運用権を持つ人達や、賃上げを要求できる組織の人達だけが、システムの中に居られる仕組みがすでに公正ではないと思う。

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