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2009-06-21

『日本の難点』 宮台真司(著)

41bazhonal_sl500_aa240_今の「ポストモダン後」の世界は、評価の規準が一度相対化されてしまっている。一方価値観の相対化は避けて通れない道であった。その中で規準を一度相対化 されてしまった我々は、目の前の問題群から逃避しがちだ。しかしそれでいいような時代をいつまでも続けるわけにはいかない。そういうメッセージを伝えよう とした文章だと感じた。

「はじめに」に書かれてあるように「どういう種類であれ残虐を見て見ぬふりを許さぬためには、誰であれどこであれ(=普遍的に)それは許されないと主張できなければいけない」のだから、「普遍主義を相対化する」という既成左翼の問題点を批判せよ、という論点がいきなり胸にとびこんで来る。

普遍主義の不可能性と不可避性」相対主義に梯子を外されて終わるのでなく、普遍主義が不可能であることをふまえつつも、真の普遍主義を求めて社会にコミットせよということか。

では著者が言うコミットメントの具体的中身は何か? と言えば、やや抽象的で学際的な印象に聞こえてしまっている気もする。しかしだからと言って、具体的な話に踏み込み過ぎて党派性を匂わせるようなことを書いてしまえば、相対主義を超えられない後戻り。そんなアポリアにはまる程度の著者ではないわけで、この先の具体性は読む側に残された課題だということだろう。学者が簡単に答えを与えてしまっては社会の成熟度が高まらないし、実際著者にも答えの出せない問題が山のようにあるだろうし...。

多岐に渡るテーマには、簡単に賛成できないものもある。各論的には理解できるが、「重武装X対米中立」とか言われても非現実的に思ってしまう。しかし納得できる視点も多い。

  • 「ゆとり教育」は授業時間の問題に矮小化されて受け止められ過ぎている。
  • オバマは、黒人対白人、白人キリスト教対イスラム、といった二項図式を超えた多義性を持ったシンボルであるからこそ、広汎に支持された。オバマ陣営は、それを利用することに意図的だったので、従来の政治家のように「友敵図式」を持ち出すことが、「包摂主義の排除性」という逆説を生むことに敏感であった。
  • 環境問題はすぐれて政治的な問題だから、いまごろ「環境問題のウソ」など持ち出しても手遅れ。

などなど、それが一つだけの見方とは思えないものの、説得力はある。

秋葉原事件についても、「誰かなんとか言ってやれよ問題」なのだという著者のような視点もなければ、世論のバランスが悪いだろう。著者の表現が気に入らない人もいるだろうが、犯罪者を格差社会の怒りを代弁するヒーローにしてしまっては、普遍主義からはほど遠い。

派遣労働者の問題についても、企業のルール違反より、経済的に困窮した個人を受け止めていく社会基盤が崩れてきていることに目を向けているのが、社会学者らしい。私も以前から、派遣切りされた若者達が、住居も失うような生活の危機に陥ってしまうことに疑問を抱いてきた。30年も前の日本なら、会社で突然首を切られたからといって、「明日も何とかなるさ」といった図太さが人々の生き方にあった。それができなくなってきているのが、とりもなおさず家庭や地域を含めた社会基盤の崩壊なのだろうが、派遣切り問題をそういう視点で語る論者は少なかった。

ただ、だから昔の日本社会の良さを取り戻せといった議論では、何も提案できないに等しいことも著者はよく分かって書いている。グローバル化していく世界も、経済の金融化も、地域の「コンビニ化」も、実際はそうならざる得ない必然性がありそうなっているのであって、簡単に逆もどりはできない。左翼的な議論の多くは、「差別を固定化させる新たな体系が作られた」のだから「以前のほうがましだった」「とりあえず前の状態にもどせ」といった、規制を使って時間を逆向させる議論が多い。金融規制、労働規制、後期高齢者医療制度の廃止などが典型的な例。しかし金融資本主義、労働力の流動化、社会負担率の上昇などは避け難い。

しかし一方で、左翼的な正義感や単純図式から抜け出して考えていくことは、抽象的で難しくなるのも事実。

--------

こんな現実を立て直す、あるいは新しい「包摂」の仕組みを創り出すことが必要だと著者は書いているけれども、そのために我々が社会にコミットメントしていくとは、具体的にどんなことだろう。読んでいてだんだん分からなくなるのである。

「底の抜けた社会」の中で、人々が最底辺にまでは落ちて行くことのない社会であるためにどうすればいいのかと考えたところで、それを実現する手続きも資源も、我々の手の届かないところに握られている。だから、またも相対主義に陥るのか、もしくは「分かってはいるけれどしかたない(著者の言う沖縄=沖縄は日本の縮図)」で日常を過ごしていくのかが問われているのだけれど、コミットメントって不透明(?)って感じもしてくるのだ。

著者も書いているとおり「市民が、想像の共同体である国家に直接コミットすることは、社会学的にはあり得ない」(p257)むしろ、どんな社会であっても、国家が人々を動員するなんらかの装置によって、国民国家としての動員を達成するにすぎない。ならば、何らかの法律制度として、"かたち"としての新しい「包摂」の仕組みを、政治の側に創り出させていくしかないということになるのではないか。あれこれの抽象議論よりも、制度としての普遍主義の体現しか具体的な"かたち"が思い浮かばない。

すると今度は、法律制度に我々の意見が繁栄されるための前提として、材料としての情報の透明性はどうかが問題になる。

著者の書いている「後期高齢者医療制度」のことにしても、世界に誇れる日本の社会保障制度が危機的だから、「責任主体の不明確な、とうてい『制度』とは呼べない老人保険制度」(p211)に戻ることは間違っているというのはよく分かるのだが、官僚が操縦する制度が、はたして「保険料負担率」ひとつとっても所得に応じた公平なものになるかどうか、国民側からは全く見えないからこそ問題にされるわけであって、消費税などのことにしても同じことだ。

その点、書いてあることは間違っていないにしろ、著者は自分がエリートだから、エリート指向が強いのではないかと、読んでいて感じることが何度かあった。論点が間違っているわけではないのだが、おそらく一般の読者にはそこのウケが悪いのだろう。

マスコミに踊らされて、ほぼ非生産的な官僚批判などいつまでも続けていても無意味だとは確かに思う。大多数の人間の共通利益を代表し、実行できる優れたエリートをこそ育てよという著者の考え方は正しい。しかし真のエリートを生み出すためには、我々社会の一般の人々が、それを求めるまでに意識を高くせねばならないだろうし、それは国家システムの側の情報開示度を高めることと相乗的ではないだろうか。私は「後期高齢者医療制度」を廃止せよという議論の中に生まれる、何らかの建設的な要素もあると思っている。

ハンナ・アーレントが言ったような、特定のイデオロギーに収束することの無い多分岐社会、人々が高い意識で議論しあえるような社会を、著者も願っているような気がする。イデオロギーではない市民運動の再構築が必要だろう。であるなら、心が「感染」をしてしまうような人物に期待するかのような本書の終わり方は、著者の意図がそこに無いことは承知しつつも、ある種のメシアニズムのように聞こえてちょっと残念。

この本で、社会と我々の側に鋭い問題提起をするのと同じくらいに、これからもっともっと、利他的とはほど遠い今の官僚と政治家に、鋭い問題提起をしていってほしいな。

いやもうさんざんやっているよと言われるのかもしれないけれどネ。

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コメント

宮台ってこいつに騙されてんじゃないの?
http://www.petbottle-rec.gr.jp/syoseki/index.html
http://homepage2.nifty.com/koshi-net/other/kaihou/73-2.htm
http://www.rakkousha.co.jp/books/ka_02.html
http://www.cneas.tohoku.ac.jp/labs/china/asuka/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A6%E7%94%B0%E9%82%A6%E5%BD%A6

もう何から何までウソ
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1416150624
http://oshiete1.goo.ne.jp/qa3015591.html

そして・・・!!!
週刊文春2月12日号
「マイ箸は不要」「ペットボトルは燃やせ」のウソ 椎名 玲・吉中由紀
「エコ批判」武田教授に公開質問状

宮台氏のこの本、環境問題のところをもう一度読み直してみたが、CO2が温暖化の主犯かどうかなどなどの是非論には結論的なことは書いていなかった。むしろ「環境問題は経済的な『先行者の利得』の確保につながる体制変革をもたらす、重大極まる政治的な決定であること。それを政官財一体となって理解」するかどうか(p230)を問いかけていると読める。
私も宮台氏の主張に説得力はあると書いたが、それが一つだけの見方とは思えないとも付け加えている。それに「環境問題」の話自体、上の記事には一ヶ所しか触れていない。
にも関わらず、記事を書いた翌日にこういう(熱心なw)コメントが付くことに、いかに宮台真司という学者が賛否にさらされやすい人かということを感じて、逆に笑えてしまった。

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