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2014-06-07

永遠の0

去年やたらと売れているとかで、書店に平積みされていて買ってしまった口。中高生の頃は、当時はありがちなプラモ同好会なるものを友達とやっていたし、高じて「丸」などといった軍事オタクな雑誌も読んでいたので、零戦けっして嫌いじゃない....というわけで、零戦は負の遺産とか言いません、はいw 流行りモノへの弱さと興味本位でつい。...で、通勤電車で軽く読破。

大衆向けとしては、よく練られたいい話だし、ラストのどんでん返し(いや実はちょっと予想できたけど...)も感動は無くはない。でもこれって読み物としての「小説」ではあっても、文学には......ほど遠いよね。

戦時中、特攻で死んだ腕のたつ零戦パイロットだった実の祖父、宮部久蔵について、かつての戦友だった老人たちを孫の姉弟が訪ねて話を聞くという設定。ただ、その老人たちの語り方が、いかにも著者は戦記物をしっかり読んで勉強しました的で極めて不自然。どこかのレヴューで「戦争ドキュメンタリのコピペ」と揶揄されてるが、そんな印象は確かに拭えない。ガダルカナルでの日本軍の作戦は失敗だったからどうたらとかいう話は、どちらかといえば俯瞰的で、その場にいた兵士の言葉として伝わるものじゃないんじゃないか....といった違和感が読んでいてずっーーと続く。

たとえ臆病者とののしられても戦地を生き抜いて家族のもとに帰ろうとしていた祖父が、ラスト近くになって結局は特攻に志願して死んでゆく。その心変わりの理由も、特攻で自分の部下たちが次々に死んでゆくことに耐えられなくなった的な感じが何となく示唆はされているが、掘り下げた心理描写は何も無い。一方で同じ時に特攻に飛び立った部下に、暗に自分の家族を託す物語が残される。そのことで感動を作っていく意図はいかにも放送作家出身の著者らしく、架空のストーリーとしては良いのだろうし、そこに読者が一番惹きつけられるのは分かる。でも、それによってどこかで、特攻が「悲しくも美しい物語」にまとめ上げられている感があり、実に微妙。

この本が売れたりいろいろ社会的な評価も上がった著者が、昨年の都知事選で救えない暴言を吐いた。僕はもちろんそのニュースには呆れた口だが、だからといって実生活の作者の思想や態度だけから作品を逆照射するような短絡はしたくない。小説は小説だからね。ただ、そのニュースに関連して、批判された著者が「私のことを右翼小説家だという人がいますが、とんでもない。『永遠の0』はむしろ反戦的だ!」みたいな発言をTVでしていました。権力に反抗してでも家族のもとへ生きて帰ろうとした宮部久蔵が「反戦」的な人物像だからという意味でしょう。でもほんとに反戦的でしょうか?

物語の途中、どことなくアサヒった感じの左翼的な新聞記者が出てきて、「特攻隊は軍部に洗脳されたテロリストだ」とか言う場面があり、元特攻隊員の老人に論破されます。この新聞記者の意見は実に図式的で短絡的でしょうが、それを戦争を実体験した老人の「いかにもまっとうな」意見で簡単にやっつけすぎです。戦争における「洗脳」の問題なので、そこを踏み込んでこその場面だと思えますが、作者の問題意識はあれで何かが伝わると考えて終わりなのでしょうか。

この小説が戦争を賛美しているとの批判があるようですが、賛美とまで言うと的外れでしょう。しかしでは戦争を批判しているかというとそうは言いかねる何かが残りました。私個人の読後感としては、特攻を「悲しくも美しい物語」でまとめ上げる結末がはたして反戦的であるのか?どうしても拭いきれない疑問が残ります。家族愛こそ基本の是とすることで、政治的背景の吟味抜きに「愛国心」を肯定する考え方も世の中にはある。もちろん家族愛こそ基本の是という考えが権力の欺瞞を見ぬく目に育てば、何の問題も無いわけですが、この小説にはそこを問いかける深さが、全く、これっぽっちも無いので非常に難しいところです。 結局何が問題なんでしょうね。おそらく「戦争で死ぬことに反抗する」主人公を描いていても、彼の心理の奥や葛藤も、彼を抑圧する軍事権力の恐るべき姿もたいして描いていない...どうもそこに問題があるような気がします。最後に苦渋の決断をした宮部久蔵の辛さ無念さに泣けても、そういう兵士の良心を利用して戦争に駆り立てた卑怯な権力の顔がいまいち見えてこないのです。

売れる読み物であることと、物語の深さは両立しないのでしょうか。何かが安っぽい....。結局やはり文学にはほど遠いか....。

「集団的自衛権」とかいう誰も頼んでいない議論を政府がやっている今ごろ、あえて半年前に読んだベストセラー小説の感想を書きました。この小説、零戦ブームまで巻き起こしていて、まあビジネスとしてはかなり上手いとは思いますけどね。読後、近くで映画もやっていて、一時は見に行こうと思いましたが、やめました。どうせすぐテレビでやるしねw

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コメント

私は小説を読まないし、テレビドラマも見ません。
この世の中で偏ってしまうのですが、嫌いなものに手を出す勇気がありません。
jgb様は「知識人」にあたるのでしょうが、私は学部も出ていません。
グループホームでの限られた時間に学習会・集会に出かけていますが、今一番やりたいのが「憲法」です。日体大の島田雅彦教授の話が、私にはしっくりきます。
受験生の時に分かっていればよかったのに。もう大学教員になれません。
でも「知」を求めて、今後もさわよっていくつもりです。

「清水」雅彦先生でした。清水先生とjgbさんの、お2人にお詫び致します。

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